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Mikres Afrodites 春のめざめ

ギリシャ映画 (1963)

日本語のサイトを見ていると、そのほとんどに、古代ギリシャで書かれた恋愛物語『ダフニスとクロエ』(2世紀末~3世紀初め頃)に発想を得て作られた作品と書かれている。しかし、『ダフニスとクロエ』では、登場する若き男女は共に羊飼いだし、結末も全く異なる。一方、映画の最後には、「この映画は、紀元前3世紀に書かれたテオクリトス〔紀元前310-前318年〕の『牧歌』と、古典的な名作『ダフニスとクロエ』に基づき、時代を紀元前200年に設定して作られた」とあるので、『牧歌』の影響も入っている。映画に登場する2人の若き男女は、スキムノスとクロエ。なぜ、ダフニスでなくスキムノスなのか? クロエの方は同じなのに。また、ダフニスが15歳、クロエが13歳とクロエの方が年下だが、映画では、10歳と12歳。年齢が逆転している。10歳のスキムノスが相手では、思春期の始まったクロエには幼すぎたに違いない。クロエは、スキムノスの「愛の萌芽」をなかなか受け入れないのに、映画の最後で見知らぬ青年から強姦されると、最後には、その暴力を受容してしまう。そして、その姿(強姦ではなく受容)を見たスキムノスは、クロエの分身でもあるペリカンを海に捨てに行き、溺れてしまう。これが、意図的な自殺だったのか、死の可能性を覚悟した無謀な行動だったのかは分からない。スキムノスはペリゾーマ(perizoma)というパンツの上から羊の毛皮を被っている。こちらは、当時の羊飼いの子ならさもありなんという服装だが、クロエは、2枚の布で前後に体を挟んでいるだけで、横は丸見え。当時は、貧しくてもトーガ(体に布を巻きつける)だと思うのだが? 映画の原題を『Mikres Afrodites(若きアフロディーテ)』としたのは、そのためか〔アフロディーテは美しい女神だが、男心を操り、情欲もあるとされる→映画の中のクロエそっくり〕? この映画は、ベルリン映画祭で最優秀監督賞、国際評論家連盟賞を受賞した他、当時設立間もないテッサロニキ映画祭でも多数受賞していて、スキムノス役のヴァンゲリス・ジョアニデス(Vangelis Ioannidis)は「名誉賞」をもらっている。この映画について、書かれたものを捜してみたが、唯一見つけたものは、シドニー大学のVrasidas Karalis教授が、2016年に出版した『Nikos Koundouros and the Cinema of Cruel Realism(ニコス・コンデュロスと冷酷な現実主義の映画製作法)』〔ニコス・コンデュロスは、この映画の監督〕。そこには、次のように書かれていた。「映画は、年少期の性衝動と大胆に取り組んでいるが、それは、1960年代初頭に端を発する裸体への俗悪な性的表現に対する怒りを込めた挑発としてであり、年若い男女が自分達に何が起きたかを理解しようと苛立つ姿を、知性化や理想化に頼ることなく、感覚的な謎解きの形で映像化している。性愛的な魅力は自然な枠組みの中で表現され、それが主たるあるいは快楽的目的ではないため、結果として、非常に年若い男女の裸体映像があっても、それは、性衝動や愛情行為や人体についての秀逸かつ倫理的な物語の範疇に留まっており、猥雑な覗き見趣味、もしくは、嫌悪感を起こす小児性愛とは完全に一線を画している」。私は理系だが、文系の人の書く文章は難しい。

この映画の主人公は2組。少年と少女、それに、男と女。何れも、男性が羊飼いのグループ、女性が漁村の住民。両者の接点は一ヶ所だけ。それが重要な鍵になるのだが、ここでは、男と女については軽く触れるに留め、10歳の少年スキムノスと、12歳の少女クロエに絞って紹介する。時は、紀元前200年。場所は、ギリシャのどこか〔撮影は、ロードス島〕。遊牧の羊飼いのグループ十数人が、新しい牧草地を捜して羊を移動させている。しかし、行けども行けども荒地が拡がり、飲む水すらない。ようやく井戸を見つけるが、そこは漁村の入口の前だった。漁村では、男は全員漁に出ていて、女性しか残っていない。そこで、男性ばかりの羊飼い達が入って来れないよう、門を閉ざして内に籠る〔その間、井戸は使えない〕。この「立入禁止」を破ったのは2人。うち1人は、10歳のスキムノスだった。小さいので井戸水も飲ませてもらえなかったため、スキムノスは「門」の対岸で海水を飲もうとするが、飲用には適さないと知る。その姿を覗き見していた12歳のクロエは、真水をスキムノスに贈る。翌日、スキムノスはクロエに会いに行き、アヒルの一羽を振り回して殺してしまい、クロエから嫌われる。スキムノスは、前日、クロエが大事に隠すのを見ていたペリカンの死骸を運んでくると、それを十字架のような架台〔この当時、十字架はまだなかった〕に、生きているように縛り付ける。スキムノスは、クロエが好きになるが、クロエは言葉を左右して、スキムノスを翻弄する。怒ったスキムノスは立ち去りかけるが、その時、変な男が現われて怖くなったクロエは、スキムノスに戻ってくれと懇願する。どしゃ降りの雨となり、雨から逃れて洞窟に入った2人は、そこで初めて男女のセックスを見てしまう〔もう1組の男女との唯一の接点〕。スキムノスの心は乱され、クロエを別な意味で意識し始める。スキムノスが、仲間のところに戻ると、グループがそろそろ出発するらしいと分かる。しかし、スキムノスはクロエと分かれたくない。そこで、クロエに会いに行き、永遠の愛を誓い、どこにも行かないと約束する。スキムノスは、仲間と一緒に行きたくないので、必死になって岩場に隠れるが、燻り出されて捕まり、連れて行かれる。しかし、クロエが忘れられなくて、何とか逃げ出して浜辺に戻る。しかし、そこで見たのは、クロエが、仲間の1人の青年によって強姦される姿だった。クロエは、必死で抵抗したが、最後には、それを受け入れ、青年を抱いてしまう。それを見たスキムノスは、クロエの分身でもあるペリカンを架台から外すと、海に投げ込もうと荒磯に引きずって行き、波に呑まれて帰らぬ人となる。

スキムノスを演じるヴァンゲリス・ジョアニデス(Vangelis Ioannidis)について、生年月日は不明。ある海外サイトには1948年と書いてあった。もし、これが正しければ、撮影が1962年でも14歳になり、設定の10歳とはかなり異なる。ヴァンゲリスは、この作品に出演する前、5本の映画に出ている。最初の1本『Agnes psyhes』(1959)は単独主演だが、情報はゼロ。幸い、2本目の『To potami』(1960)だけは、写真が入手できた(下の写真)。1960年ということは、1年前の撮影だと11歳になる。この写真と、『春のめざめ』とを比べてみると、あまり年齢差がないように見受けられる。ということは、1948年というデータは正しく、撮影が公開のずっと前だったとも考えられる。
  


あらすじ

遊牧の民が羊を追って砂の荒地を進んでいる。先頭に立つのは、松葉杖2本で体を支えながら、誰の助けも借りずに歩く初老の男性(1枚目の写真)〔松葉杖は、古代エジプトでも使われていたので矛盾はない。ただし、BC2550頃の絵では1本だけ。BC480頃のギリシャの壷の絵も1本だけ〕。この男性モロッソスが羊飼いの長(おさ)に当る。後に続く2人は、何か棒担架のようなものを担いでいるが、何が載っているかは分からないし、他にもこうした連中がいる。一行は、何日も水の摂取を制限してきたらしく、舞い上がる砂の中、1人の羊追いが、「丘に戻してくれ。もう歩けない」と言って地面に膝を付く。その脇を少年(スキムノス)がすたすたと歩いて行く(2枚目の写真)。誰も相手にしてくれないので、羊追いは仕方なく歩き始める。行く手に井戸が見えてくる。羊追い達は、モロッソスそっちのけで井戸に走り寄る。中にはスキムノスもいる(3枚目の写真、矢印)。しかし、中の水は涸れていた。喉が渇ききった1人の男は、水担当が持っていた羊革の水筒を奪うと飲み始めるが、モロッソスはすぐに革水筒を奪い、思う存分に飲む。その時、羊追いの1人ツァカロスが、「小僧はどこだ?」と言い、指笛を鳴らす。
  
  
  

その頃、スキムノスはペットのキツネを連れて近くにあった石の廃墟の中を探検していた。スキムノスが端まで行って下を覗くと(1枚目の写真)、1人の少女(クロエ)が大きな鳥(ペリカン)の死骸を引きずって穴の中に隠そうとしている。クロエの方も、見られていると感じ、スキムノスを見上げる(2枚目の写真、矢印)〔通路には、キーストーンを含む斜めのアーチや、アーチ型の穴があるが、BC200年の段階で廃墟となったギリシャの町で、これらが使われていたとは考えにくい(ギリシャでは、パルテノン神殿のような梁と柱の構造がメインだった)。ロケ地は、恐らく古代ローマ時代の遺構であろう〕。見つかったと悟ったクロエは、鳥を置いて逃げ出す。スキムノスはクロエの後を追う(3枚目の写真、矢印)、クロエの力で大きなペリカンを延々運んだとは思えないので、恐らく、クロエは廃墟の中でペリカンを発見したのだろう。スキムノスが、岩の下まで辿り着くと(4枚目の写真、毛皮の下はパンツ1枚だけ)、クロエが岩礁の隙間に架けられた木の板を渡って、「向こう側」〔漁村のテリトリー〕に逃げ込むのが見える。
  
  
  
  

しばらくすると、羊飼いたちも、スキムノスが到着した辺りまで辿り着く。そこには、「向こう側」の人々が飲用に使っている井戸があった。水が豊富にあることを知った羊飼いたちは、甕(かめ)を綱に結びつけで井戸に入れ、水を汲み上げる。作業をしているのは、後で悪役になる唖の青年リカスだ。スキムノスは、何とか水の配分にあずかろうとして、井戸の周りに集まった羊飼いの間に割り込もうとするが(1枚目の写真、矢印)、邪魔者扱いされて後ろに投げ飛ばされる(2枚目の写真)。リカスが顔を上げると、対岸の岩礁に10名以上の女性が姿を見せる。リカスは、すぐにモロッソスに知らせる。モロッソスが見守っていると、女性たちは、岩礁の隙間に架けた木の板の先に設けられた2本の木の柱に、横木を3本縛り付ける(3枚目の写真)。明らかに、「入ってくるな」というサインだ。モロッソスは、「水を共有したいだけだ!」と叫ぶが、女性たちは去って行く〔モロッソスがここに滞留するのは、結局3泊だけだが、その間、対岸の女性たちは水を汲みに来られない〕
  
  
  

追い払われた形のスキムノスは、喉が渇いているので、岩礁の波打ち際まで行き、海水をすくって飲もうとする(1枚目の写真)〔スキムノスが海に来たのは初めて〕。一口飲み、水とは違うものだと分かり、吐き出す。それを反対側でこっそり見ていたクロエは、スキムノスが可哀相になり、甕の水を陶器の鉢に入れると、それを浮かべ、スキムノスの方に押しやる〔対岸までの距離は10メートル以下〕。しかし、全然先に進んでくれないので、途中まで鉢を持って行き、スキムノスに向かって押し出す(2枚目の写真)。スキムノスは、新鮮な水を浴びるほど飲むと、空になった鉢で海水を汲み、何度も水浴びする(3枚目の写真)。それを見たクロエは、逃げてしまう。その夜、スキムノスは木の板を渡り、「柵」の手前で 横になって寝る。
  
  
  

翌朝、岩の上からリカスが見ていると、クロエが柵まで来て、すぐそばで寝ているスキムノスの様子を伺っている。スキムノスは、ペットのキツネを抱いて寝ていた(1枚目の写真)。先に目覚めたキツネが海に落ちて泳ぎ始め、クロエは逃げ出し、スキムノスはキツネの後を追う。スキムノスは対岸でキツネを捕まえて抱き上げると、そのまま岩礁沿いに歩いて行く(2枚目の写真)。向こうからは、4羽のアヒルを追ってクロエがやって来る〔スキムノスは、漁村のテリトリーの中に入り込んでいる〕。スキムノスはクロエを見ると、岩の上に後ろ向きに座り込む。それを見たクロエは、スキムノスの横に行くと、珍しいのか、キツネの顔に触ろうとする(3枚目の写真)。しばらくすると、クロエは立ち上がり、誘うようにスキムノスを見て、離れて行く。それを見たスキムノスはキツネを抱いたまま立ち上がり、クロエの後を付いて行く。
  
  
  

クロエは突然、海の中に駆け込み、スキムノスも同じように駆け込む(1枚目の写真)。スキムノスは、キツネを放すと、アヒルの1羽につかみかかり、脚を握って振り回す。アヒルはショックで仮死状態になったのか、あるいは、死んでしまい、動かなくなる。スキムノスは、ふと、自分が「非難するような目」で見られていることに気付く(2枚目の写真)。クロエは、「あんたみたいな子、好きになれないわ」〔クロエの最初の台詞〕と、アヒルに対する残酷な仕打ちを批判する(3枚目の写真)。スキムノスはアヒルを投げ捨てると、走って井戸に戻って行く。このあと、ツァカロスは「漁村のテリトリー」に侵入し、木に干してあった魚網にかかった鳥を逃がしてやった漁夫の妻アルタに話しかける。2人のシーンは10回ほどあるが、その第1回。その中で、紹介する価値のある台詞は、アルタが、「余所者が来たの、これが初めて」というものと、「男の姿が見えんな」というツァカロスの言葉に対し、アルタが「漁に出かけてる」と答えるもの〔観客には、ここが漁村だと初めて分かる。そして、女性しかしない理由も。ただ、スキムノスのような小さな男の子は残っているはずだが、映画には登場しない〕
  
  
  

スキムノスは、クロエに嫌われたくないので、クロエがペリカンを隠した場所に行き、巨体を必死に引きずり、最後は、力任せに壁を引っ張り上げ(1枚目の写真)、何とか廃墟から出す。一旦、廃墟を出て邪魔するものがなくなると、担ぎ上げる。ペリカンは、スキムノスの体と同じ位の大きさなので、足元がふらついている。このあと、ツァカロスとアルタの2回目。「君らも水が要るだろう。俺たちは羊飼いだ。噛み付きはせん」。スキムノスは、ペリカンを担いで延々と歩き、クロエのいる海辺まで辿り着く(2枚目の写真)。最初の頃と違い、担ぎ方も堂に入っている。スキムノスは、わざと背を向けたクロエの真後ろまで近づく。クロエは振り向くと、ペリカンを愛しげに撫でる(3枚目の写真)。クロエは、岩礁に沿って水の中を歩き出し、スキムノスもペリカンを担いで追う。ツァカロスとアルタの3回目。ツァカロスは本性を現わし、アルタの肌に触れる。アルタは逃げる。スキムノスとクロエは、十字の形にした木の架台にペリカンを縛り付ける。柱の先端にはペリカンの頭がくるように、横木には左右の翼を縛る(4枚目の写真、矢印は木柱と横木、左はスキムノス、右がクロエ)。
  
  
  
  

一緒に作業をしながら、クロエは、「これは、あんたと私のもの。だけど、私たちが会ったのは たった1日前」と話す。「きのう、友だちになったじゃないか」〔スキムノスの最初の台詞〕。「あんたが誰かも知らないし、羊臭いわ」。「臭いかもしれないけど、羊じゃない。それに、これは ただの鳥だ」。「鳥じゃないわ。これは私なの」(1枚目の写真)「そして、あんたは余所者」。2人の会話を、岩陰に隠れて聞いているのがリカス。嫌らしい男だ。クロエは、上半身裸になり、網を持って海に入る。スキムノスは、そんなクロエから目が離せない(2枚目の写真)。すると、クロエが突然言い出す。「男の子が女の子を好きになったら、火を焚くものよ」(3枚目の写真)。「僕らは、蛇が怖い時、火を焚くんだ」。「本物の男なら、女の子に火を焚くのよ」。「そんなことする男なんか、見たことない」。クロエは、それには応えず、魚捕りに専念する。その姿をしばらく見ていたスキムノスは、「君の友達はどこなんだ? 隠れてるのか?」と訊く。「みんな隠れてる」。
  
  
  

2人は、その後、岩の隙間に入って行く。クロエは服を着ようとし、スキムノスは裸を見ないよう後ろを向いている(1枚目の写真)。服を着終わったクロエは、スキムノスの頬をつかみ(2枚目の写真)、スキムノスはクロエの胸に触れる(3枚目の写真)。お互いが求め、嫌がろうとはしない。一方、井戸の前では、羊飼い笛と太鼓で時を過し、やがて2日目の夜も暮れていく。スキムノスも、定位置に戻り、キツネと一緒に寝る。
  
  
  

3日目の朝の一番は、ツァカロスとアルタの4回目。アルタは、村から、こっそりと派手な衣装を隠し持って来て、ツァカロスのために身にまとう。アルタは、ツァカロスが連れて来た子馬に乗るが、これは一緒に村を去ることを示す予兆だろう。スキムノスとクロエは、岩だらけの浜辺で子供らしく戯れる。しかし、戯れが行き過ぎて、スキムノスがクロエに馬乗りになると、クロエはすごく嫌がる(1枚目の写真)。まだ10歳のスキムノスは、男同士のじゃれ合いの積もりでやっただけなのだが、12歳のクロエは別の意味で受け取り、「放して、痛いわ」と言い、驚いたスキムノスの顔を持ち上げる。クロエは、優しくスキムノスの顔に触るが(2枚目の写真)、もう一度スキムノスがクロエを抱こうとすると、一瞬の隙をついて立ち上がり、そのまま逃げ出す。残されたスキムノスが悲しそうに見送っていると、そこに、隠れていたリカスが走り寄る。そして、クロエが落としていった首飾りを見つけると、盗もうとしてスキムノスと取っ組み合いになる(3枚目の写真、矢印)。力で優るリカスは、首飾りを奪い、逃げて行く。卑怯なだけの、こそ泥だ。そのあとが、ツァカロスとアルタの5回目。アルタは夫がいることを打ち明ける。ツァカロスは、漁でいつも会えないような夫は忘れて、一緒になろうと誘惑する。
  
  
  

クロエが1人で足を海水に浸していると、スキムノスが戻ってくる。クロエは、先ほどとは逆に、スキムノスに襲いかかるような動きを見せるので、怖くなったスキムノスは逃げ出す。しかし、50メートルほど走ったところで思い直し、引き返す。そんなスキムノスを、クロエは荒っぽくつかむと、海水溜まりの中に引きずり込み溺れさせようと戯れる。ここで、羊飼いたちが踊っている場面に変わるが、ひょっとして雨乞いか〔ツァカロスは、雨が降ったら、ここを出て行くとアルタに話していた〕? ツァカロスとアルタの6回目も挟まれる。ツァカロスが、愛の言葉を囁く。アルタは、体に触れられても甘受する。冗長なシーンがやっと終わると、スキムノスとクロエ。依然として、クロエがスキムノスを誘っているように見える。クロエが、干してある魚網の前で立ち止って息をついていると、前に来たスキムノスが腕に触れる(1枚目の写真)。クロエはそれを嫌がり、スキムノスを突き飛ばす(2枚目の写真)。それでも、スキムノスは立ち上がると、ゆっくりとクロエに近づいていく(3枚目の写真)。スキムノスは、クロエが好きになり、離れることができなくなっている。ツァカロスとアルタの7回目。ここで重要なのは、アルタが初めて名を明かし、「お願い、一緒に連れて行って」と言うシーン。2人は、もう切っても切り離せない仲になっている。
  
  
  

スキムノスが、小枝をいっぱい肩に乗せて運んでいる(1枚目の写真)。それをクロエのそばの海辺に置くと、火を点ける。「男の子が女の子を好きになったら、火を焚くものよ」の言葉に応えるためだ。しかし、クロエはそっぽを向いたまま。スキムノスが、火を盛んに燃やそうと奮闘しても、そばに寄ろうともしない。スキムノスは、「男が女の子を大好きになったら、火を焚く」と話しかけて、求愛する。しかし、クロエは何も言わないし、まともに火も見ない。純粋なスキムノスは、まだ足りないのかと小枝を足し、火の勢いも大きくする。やっと口をきいたクロエは、「あんたなんか信じない」と冷たく言い放つ。スキムノスは、焚き火に必死になって息を吹きかける。「本気かどうか 証明してよ」(2枚目の写真)。「何をしたらいい? 君のために舟を盗むのか?」(2枚目の写真)「それとも、血が出るまで岩の上を歩くのか?」。クロエは首を横に振る。「何をするんだ? 君のためなら何でもする」。スキムノスは本気で愛している。返ってきたのは残酷な返事。「今夜、1人で山に登りなさい。そしたら、思い通りにしてあげる」。「1人で山に行く奴なんていない」。「登るのよ」。「夜になるとオオカミが出る」。「山に登るよう頼んだのは、オオカミがいるからよ」。「蛇だっている。火を持っていかないと」。「山に登るよう頼んだのは、蛇がいるからよ」。要は、クロエは、スキムノスを焦らしていたぶっているだけなのだ。スキムノスは、遂に怒り出す。「夜、1人で登ってみるんだな。自分が何言ってるのかも分からないくせに!」。「好きなようにしたら」。スキムノスは絶望して去って行く。
  
  
  

ツァカロスとアルタの8回目。アルタの最初の言葉。「雨になるわ」。これは、出立の時が近づいたことを意味する。ペリカンの下で寝ていたクロエは、雷の音で目覚める。少し離れた岩の間から、不気味な男(リカス)がじっと見ている。男が近づいてくるので、クロエは逃げ出す。雨が滝のように降り出す。クロエは、岩の隙間に向かう。そこでは、スキムノスが雨宿りをしていた。クロエは、先ほどのバカな発言を後悔し、「行かないで、戻って。一緒に帰りましょ。あんたに捨てられたら、死んじゃうから!」と頼むが、先ほどの言葉で傷付いたスキムノスは相手にしない。その時、洞窟には、アルタの先導でツァカロスも入ってきた。アルタは、洞窟の奥までくると、服を脱ぎ始める。「来て」。この言葉で、2人は激しいセックスを始める。一方、雨宿りの場所から逃げ出したスキムノスに、クロエは、「行かないで」と頼むが(1枚目の写真)、スキムノスは豪雨の中を離れて行く(2枚目の写真)。「お願い、こじらせないで。今すぐ、戻って」〔こじらたのは、彼女のバカな焦らし作戦〕「何がしたいか教えて。何でも言う通りにするわ!」「あんたが好きなのは、四足の獣〔羊のこと〕だけじゃないの?!」。言っていることが、全部バラバラ。クロエは、スキムノスが止まってくれないので、追いかける。スキムノスが雨を避けて入ったのは、ツァカロスとアリタが交わっている最中の洞窟だった。スキムノスは、そのあられもない姿を見て、男女の関係とは何かを理解する…心の愛情だけではないと。そこに、後を追って来たクロエも加わり、2人で「おぞましき行為」をたっぷりと見る(3枚目の写真)。もう十分に見たと思ったスキムノスは、思わぬ行動に出る。隣にいたクロエの前後に分かれた布の前側を引きずり降ろして乳房を露出させたのだ(4枚目の写真)。クロエは逃げて行く。スキムノスは、洞窟に入って行くと、仲間のツァカロスに、脱ぎ捨ててあった衣服をぶつけることでで、怒りを伝える。
  
  
  
  

雨が上がると、スキムノスはいつものルートを通って「柵」まで戻る(1枚目の写真)。柵の向こう側、井戸の周囲では、羊飼い達が出立の準備をしている。それを見たスキムノスは、クロエの元に戻る。クロエは、いつものように、海水に足を浸していた。スキムノスがクロエの前に座ると、クロエはわざと他の場所に行く。スキムノスも、すぐに、移動して座り直す。そんなスキムノスに、クロエは、「あんたは、私を愛せない」と言う(2枚目の写真)。スキムノスは、すぐに、「だけど、愛してる」と反論する(3枚目の写真)。クロエは悲しそうに首を横に振る。「何をすればいい?」。「毎日、私に 少しずつ近づいて」。「今、近づくよ」。「一度に少しずつよ」。スキムノスは頷く。
  
  
  

クロエ:「永遠に愛してくれる?」。スキムノス:「永遠に」。「約束して」(1枚目の写真)。「約束する」(2枚目の写真)。クロエは、岩の上に横になり。「雨が降ったわ。あんた、朝になったら行っちゃうんでしょ?」。「僕は残る。あいつらは、好きな所に行けばいい」。そう言うと、クロエの横にきて、優しく肩に触れる。「あいつらが行くまで、隠れてる。ここに残れと、言ってよ」(3枚目の写真)。返事がないので、「ここに残れと、言ってよ」とくり返す。クロエ:「あんたは、ここには残れない。捕まえられて、一緒に行っちゃうわ」。「ここに残れと、言ってよ」。「永遠に、いてくれる?」。「永遠だよ」(4枚目の写真)。ピュアな愛情の交換で、観ていて最も心打たれる場面だ。
  
  
  
  

翌朝、出発の合図の笛が鳴らされる。羊の群れが一斉に歩き出す。モロッソスは対岸に出て来た女性たちに、感謝を込めて手を振る。その頃、岩場では、スキムノスが追っ手を撃退するため、大きな岩を全力で動かし(1枚目の写真)、崖から落とす。しかし、それは、逆に、居場所を教えただけに終わる。スキムノスは、岩場の奥に逃げ込み、高さ8メートルほどの垂直な石の壁に取り付き(2枚目の写真)、その上部の隙間に体を押し入れる(3枚目の写真)。彼らが、なぜスキムノスに拘るのかは分からないが、スキムノスは、結局、煙で燻り出されて捕まってしまう。そして、羊たちの後を追うようにして連行される(4枚目の写真、矢印)。スキムノスが捕まったことを、クロエが知っていたかどうかは分からない。
  
  
  
  

同じ頃、クロエは、寂しそうにペリカンを見ていた(1枚目の写真)。すると、その目の前に、現代用語で言えば、ストーカー男リカスが現れる〔なぜ、連中は、スキムノス狩りにあれほど熱心だったのに、リカスを見逃したのか?〕。クロエはリカスを睨みつけ、「なぜ行かないの? みんな行ったじゃないの。あっちへ行きなさいよ」と言い放つ(2枚目の写真)。しかし、そんなことで怯(ひる)むようなら、リカスは禁を犯してこんな所に来ていない。クロエは海に逃げるが、リカスも水の中で争い、力でねじ伏せる(3枚目の写真)。
  
  
  

一方、スキムノスは、何とか隙を見つけて脱走し、クロエ目指して全速で走る(1枚目の写真)。しかし、いつもの場所まで行くと、昨日の洞窟で見たおぞましい光景と同じことが、クロエの身に起きていた。卑劣なリカスがクロエをレイプしていたのだ。リカスには敵わないので、スキムノスには見ていることしかできない(2枚目の写真)。スキムノスは、後で、クロエを慰め、永遠の愛を誓おうとしたのかもしれない。しかし、スキムノスが見ていると、クロエの抵抗は次第に弱まり、最後には、リカスを抱きしめているように見える(3枚目の写真)。クロエは自分に愛を誓ってくれたのに、そして、自分は約束を守り、命を賭して戻ってきたのに、クロエはこんなに簡単に汚らわしい行為を許し、しかも、それを喜んでいる。
  
  
  

絶望したスキムノスは、その場から立ち去ると、ペリカンのところに行く(1枚目の写真)。クロエの言葉を借りれば、それは、「あんたと私のもの」であり、ペリカンは、「これは私なの」であった。クロエに直接怒りをぶつけられないスキムノスは、クロエの代わりにペリカンを成敗しようと心に決める。2人の仲は無に帰し、クロエなど死んでも構わない。だから、そのシンボルであるペリカンを海に捨てるのだ。スキムノスは、架台からペリカンを外すと、荒波の打ち寄せる岩場まで引っ張って行く(2枚目の写真)。次の瞬間、打ち寄せた大波で、ペリカンだけでなくスキムノスも波にさらわれる。スキムノスの最後の映像は、荒波によって岩場に激突する寸前の姿だった(3枚目の写真、矢印)。果たして、これは自殺行為だったのか? スキムノスは、もう羊の群には戻れないし、漁村で暮らす訳にもいかない。残された道は死しかない。しかし、そこまでの積極的な自殺願望は なかったのではないか。目的は、裏切ったクロエの代理としてペリカンを罰すること。その後のことまで 考えてはいなかったと思いたい。
  
  
  

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